【コラム】「SL冬の湿原号」用車両改修・来年度以降も運行継続=釧網本線の長期存続になるか!?
コラム - 2021年02月12日 (金)
一昨日、JR北海道から人気の臨時列車である「SL冬の湿原号」について、使用するSLや客車などを改修して運行を継続することを発表しました。
「SL冬の湿原号」は、釧網本線で運行する冬季の臨時列車です。しかし、釧網本線はJR北海道が単独で維持することが困難な路線に指定されています。釧網本線がなくなってしまえば、「SL冬の湿原号」が運行できなくなってしまいます。
つまり、「SL冬の湿原号」の運行の継続を発表した以上、同時に釧網本線についても、今後しばらく単独で維持することが困難な路線であっても、重要な観光路線という位置づけで、路線を維持していくことを示していることにほかなりません。
釧網本線の営業係数(100円の利益に得るのにかかる費用)は、2018年度で603(管理費含む)です。昨今存廃問題に揺れている留萌本線や昨年廃止された札沼線末端区間と比べれば、数値的に悪くありません。
しかし、大自然の中を走る路線ゆえ、一方で自然災害を受けやすく、それによる輸送障害が発生しやすい状況でもあるのです。
例えば、昨年3月に低気圧の通過に伴う降雨や気温上昇の影響により、花咲線や釧網本線の一部区間で連日運休が続いていました。釧網本線も花咲線も湿地帯の中を走る区間もあるので、おそらく水がなかなか引きにくかったと思います。これが復旧作業までに時間を要する原因になり、まして釧路湿原は国立公園なので、運行再開を早めようと、無理に機械等を投入することもできないはずです。列車の運行ができなくなれば、もちろん収入も減ってしまいます。大自然の中を走る路線ゆえ、逆にそうしたリスクもあるのです。
近年のように気候変動が激しくなってしまうと、復旧に大規模な費用がかかり、運転再開が困難になるケースもあります。
しかも老朽土木構造物の大規模修繕で更新費用に概算で33億円の費用を要します。観光路線として活用策を見出していく一方、路線の維持は決して簡単ではないのです。
北海道において、不採算路線を維持していく場合、先日報道でもあったとおり、留萌本線と同様、自治体が維持に関して全額負担する従来の方針を変えていないとしています。
「SL冬の湿原号」は来年度以降も運行する方針とした一方、釧網本線が単独で維持することが困難な路線という理由で、自治体が維持費用を負担するという流れが、果たして筋が通っているのか?です。
逆に、観光路線としての価値を有することから、沿線自治体の負担を回避できたとしても、釧網本線も留萌本線などと同様に不採算路線であり、同じく単独で維持することが困難な路線に指定されています。
JR側で観光路線だからという理由で、維持費用を全額または一部を負担したとしても、それは従来の方針とは反することになりますから、このあたりを「SL冬の湿原号」を来年度以降も存続していく中で、どのように対応していくのかが気になるところです。
そんな釧網本線ですが、実は凄いプロジェクトがあるのです。世界遺産登録を推進する動きがあるのです。
過去に記事に掲載した内容をもう一度記載しますね。
釧網本線が世界遺産を目指すという報道がされたのが、記憶にある限りでは2016年2月末です。地元メディアから報じられたことなので、まだまだこの事実を知らないという方が多いと思います。
世界遺産の種類は大きく分けて3つあります。①文化遺産、②自然遺産、③複合遺産にそれぞれ分類されます。このうち、釧網本線が目指すのは、③の複合遺産になります。
Facebookページもあります。
参考:釧網本線世界遺産登録推進会議
世界遺産の登録基準は以下の通りです。
(i) 人間の創造的才能を表す傑作である。
(ii) 建築、科学技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えた、ある期間にわたる価値感の交流又はある文化圏内での価値観の交流を示すものである。
(iii) 現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である。
(iv) 歴史上の重要な段階を物語る建築物、その集合体、科学技術の集合体、あるいは景観を代表する顕著な見本である。
(v) あるひとつの文化(または複数の文化)を特徴づけるような伝統的居住形態若しくは陸上・海上の土地利用形態を代表する顕著な見本である。又は、人類と環境とのふれあいを代表する顕著な見本である(特に不可逆的な変化によりその存続が危ぶまれているもの
(vi) 顕著な普遍的価値を有する出来事(行事)、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連がある(この基準は他の基準とあわせて用いられることが望ましい)。
(vii) 最上級の自然現象、又は、類まれな自然美・美的価値を有する地域を包含する。
(viii) 生命進化の記録や、地形形成における重要な進行中の地質学的過程、あるいは重要な地形学的又は自然地理学的特徴といった、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な見本である。
(ix) 陸上・淡水域・沿岸・海洋の生態系や動植物群集の進化、発展において、重要な進行中の生態学的過程又は生物学的過程を代表する顕著な見本である。
(x) 学術上又は保全上顕著な普遍的価値を有する絶滅のおそれのある種の生息地など、生物多様性の生息域内保全にとって最も重要な自然の生息地を包含する。
この中から、登録基準のいずれか1つ以上に合致するとともに、真実性(オーセンティシティ)や完全性(インテグリティ)の条件を満たし、締約国の国内法によって、適切な保護管理体制がとられていることが必要です。
ちなみに、文化遺産、自然遺産、複合遺産の区分については、上記基準(i)~(vi)で登録された物件は文化遺産、(vii)~(x)で登録された物件は自然遺産、文化遺産と自然遺産の両方の基準で登録されたものは複合遺産とします。
2005年には同じ北海道内として知床が世界遺産に登録されたことが記憶に新しいです。知床は世界自然遺産に登録されています。知床は上記の登録基準のうち(ix)の生態系と(x)の生物多様性の2つの基準を満たして登録されました。
しかし、釧網本線が目指す複合遺産はそれとは異なり、(i)~(vi)の条件で1つ以上、(vii)~(x)の条件で1つ以上の条件がそれぞれ必要とされます。複合遺産の代表例としては、ペルーの「マチュ・ピチュ」がありますね。
複合遺産は世界的にも登録数が少ないです。世界に全1121件ある世界遺産のうち、複合遺産に指定されるものはわずか39件と非常に少ないです。ちなみに、日本ではこの条件を満たしている物件は現在ありません。複合遺産として登録されれば、日本初の登録例となり、全国的に注目されることは間違いありません。
登録基準について、2016年2月18日付で作成された「釧網本線世界遺産登録推進会議 設立趣意書」に記載されています。上記のFacebookページで確認することができます。
一部を抜粋しますが、自然遺産項目となり得る要素として、
『釧網本線(網走~東釧路、166.2㎞)は、網走国定公園、阿寒国立公園、釧路湿原国立公園を走り、世界自然遺産・知床を見渡す路線です。冬のオホーツク海の流氷や日本最大の屈斜路カルデラ、日本最大の面積を誇る釧路湿原などが沿線に広がる、世界的にも注目を集める、屈指の絶景鉄道です。これらに代表される多様な地球科学的な価値を有していることから、沿線では貴重な動植物が生息し、タンチョウをはじめ、ハクチョウ、オオワシ、オジロワシなどを車窓から見ることができ、北海道の雄大な自然を感じることができます。』
一方で注目となるのが、文化遺産登録の項目における「顕著な普遍的価値を有する記念物、建造物群、遺跡、文化的景観など」を有するのかどうかです。
ここで重要キーワードとして「顕著な普遍的価値」というものがあります。まず、普遍的な価値とは、「すべてのものに共通しているさま」です。世界遺産というキーワードで話題を展開するのであれば、世界遺産は全ての人々にとって価値を有するものとしなければならないということです。
ネット上で意味を調べていると、「顕著な普遍的価値」の意味がありました。それは、
「国家間の境界を超越し、人類全体にとって現代及び将来世代に共通した重要性をもつような、傑出した文化的な意義及び、または、自然的な価値を意味する。」
ということです。このことについて、設立趣意書には、
『アトサヌプリ(川湯硫黄山)での硫黄の採鉱、輸送のために前身の釧路鉄道が敷設されたのは、北海道近代化の黎明期でもある明治20年(1887年)まで遡り、その硫黄は世界の工業化の礎のひとつとなりました。鉱山採掘や鉄道敷設には囚人が動員されたという、北海道開発における重要な歴史も有しています。』
とそれぞれ記載されています。自然や景観だけが注目されがちですが、こうした歴史や文化的な観点もあったということも色々と学ばせていただいた次第です。
指摘させていただきたい点として、例えば、歴史ある文化遺産が指定されるものとしては、不動産の有形構築物が一般的だと思います。ですが、世界の鉄道関連における世界遺産の登録例はさまざまであり、鉄道そのものが世界遺産となったり、2つの山岳鉄道が登録対象となったり、山岳鉄道群として登録された事例もあります。確認する限りでは主に山岳鉄道での登録例が多いです。
調べていると、これらは主に世界文化遺産登録となっていると思われ、上記の(ii)と(iv)の2つの登録基準を主に満たしています。その鉄道路線において後の建築物や建造物、そのほか技術だったり景観設計などに大きな影響を与えた要素が含まれています。
例えば、オーストリアのゼメリング鉄道はヨーロッパで最初に国際標準軌間を採用した山岳路線であり、自然と調和させたトンネル掘削、橋梁架構が大きく評価されました。
スイスとイタリアが共有するレーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観においては、複数のトンネルや橋で特徴的な構造をもち、加えて沿線の景観とともに高く評価されました。
世界の事例と比較すると、世界遺産を目指す釧網本線との違いは、鉄道路線を形成するうえでそうした歴史的な建造物を有しているか、あるいは、後の鉄道路線発展に寄与するべく、何らかの先進的な技術が導入されていたかの2点です。釧網本線からは見えづらい部分があります。
例えば後者の場合、前進となる釧路鉄道開業時からレールや枕木をそのまま使用していたりすると、世界遺産登録を目指すには1つの注目ポイントになります。それだけではなく、1年を通じて北海道という環境の変化が厳しいの中で、90年以上にわたってレールだったり枕木だったり、そうした地上設備を維持してきた技術を含めると文化遺産として認められる要素を含む気がします。
なぜ、このようなことを挙げるかというと、上述の通り、世界遺産登録に際し、真実性(オーセンティシティ)や完全性(インテグリティ)という条件を満たさなければならないからです。言いかえると、例えばレールや枕木などの地上設備が開業当初から高い技術力によってそのままの状態で使われてきたか、あるいは維持され続けてきたかということです。安全上の問題で日本ではそうしたことができず、レール幅改ざんの問題が発覚して以降、道内の各路線で地上設備に手が加えられたことは事実ですから、路線そのものの建築物や建造物からみる歴史的な背景は乏しいと言えます。
昨今、橋梁やトンネルを中心に老朽化の問題も取り上げられています。世界遺産に登録されるような路線のもつそうした建築物や建造物というのは、おそらく100年以上にわたって使い続けられており、老朽化の心配もなければ、錆びるなどの景観を崩す要素も含みません。もちろん今後も末永く使い続けていくことになります。施設の老朽化問題に建築物や建造物が取り上げられているレベルでは、世界遺産に登録されている鉄道あるいは鉄道路線にはとても太刀打ちできないでしょう。
仮に世界遺産となれば、日本ではそうした事例がなく、初の登録事例として注目をあびることは言うまでもありません。複合遺産登録も日本では1つもないので、さらなる注目をあびることで地域振興策の1つとしても期待することができるでしょう。
このような、北海道の鉄道が明るくなる・元気になるような活動が開始された反面、当時は悲しい現実に直面することになります。
過去に当ブログにコメントにて、この世界遺産を目指す重大プロジェクトは最低でも10年以上かかる大事業ということを教えていただきました。重大プロジェクトが立ち上がったばかりだったにも関わらず、当時、釧網本線が単独で維持することが困難な路線に指定されてしまいました。
釧網本線世界遺産登録推進会議の方々にとっては、そのような発表がされた際、非常に困惑したことと思います。単独で維持することが困難ということだけが発表されただけで、具体的にどの程度存続できるのかもわからない。そして、他の路線や線区のように急に廃止打診などの報道が流れて、路線が次々と消えてゆく、、、。
そんな方向性が不透明な中で、5年の歳月が流れました。その中でも、釧網本線での明るい話題を中心にFacebookページは更新し続けています。今回の「SL冬の湿原号」の来年度以降の運行継続及び、老朽化したSLと客車の改修を実施することで、「SL冬の湿原号」のみならず、「くしろ湿原ノロッコ号」や「流氷物語号」、そして、そうした列車が走る釧網本線も何らかの形で不採算ながらも維持していくという方向性が見えたと思います。10年以上かかる巨大事業も再始動できる見込みがありそうです。
昨年度と今年度は新型コロナウィルスの影響で利用が落ち込んでしまった「SL冬の湿原号」。同列車が来年度以降も運行を継続することで、釧網本線の廃止を阻止できる救世主にもなります。
釧網本線は不採算路線に変わりはないですが、臨時列車が削減される中で、引き続き設定されている列車が多く、北海道の恵みシリーズやキハ54形気動車によるラッピングトレインなど、イベント用の車両の運行が多く、数日釧路に滞在していると、本数が少ないながら、意外と明るい路線だということが見えてきました。
もちろん、臨時列車が多い時期だからという理由もありますが、維持が大変な反面、北海道の中でも特殊なポテンシャルというか、力を持ってると思います。釧網本線については、管理者は根室本線が不通になっていることや、石勝線が万が一不通になった場合の迂回手段として、仮に廃止の方向へ持っていくのであれば、要検討すべきということは以前からブログ記事で記載してきました。
あくまで「SL冬の湿原号」の来年度以降の運転を継続していくことが決まっただけですが、観光路線として価値を見出していけるのであれば、釧網本線の未来も明るいものになってほしいと思います。
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「SL冬の湿原号」は、釧網本線で運行する冬季の臨時列車です。しかし、釧網本線はJR北海道が単独で維持することが困難な路線に指定されています。釧網本線がなくなってしまえば、「SL冬の湿原号」が運行できなくなってしまいます。
つまり、「SL冬の湿原号」の運行の継続を発表した以上、同時に釧網本線についても、今後しばらく単独で維持することが困難な路線であっても、重要な観光路線という位置づけで、路線を維持していくことを示していることにほかなりません。
釧網本線の営業係数(100円の利益に得るのにかかる費用)は、2018年度で603(管理費含む)です。昨今存廃問題に揺れている留萌本線や昨年廃止された札沼線末端区間と比べれば、数値的に悪くありません。
しかし、大自然の中を走る路線ゆえ、一方で自然災害を受けやすく、それによる輸送障害が発生しやすい状況でもあるのです。
例えば、昨年3月に低気圧の通過に伴う降雨や気温上昇の影響により、花咲線や釧網本線の一部区間で連日運休が続いていました。釧網本線も花咲線も湿地帯の中を走る区間もあるので、おそらく水がなかなか引きにくかったと思います。これが復旧作業までに時間を要する原因になり、まして釧路湿原は国立公園なので、運行再開を早めようと、無理に機械等を投入することもできないはずです。列車の運行ができなくなれば、もちろん収入も減ってしまいます。大自然の中を走る路線ゆえ、逆にそうしたリスクもあるのです。
近年のように気候変動が激しくなってしまうと、復旧に大規模な費用がかかり、運転再開が困難になるケースもあります。
しかも老朽土木構造物の大規模修繕で更新費用に概算で33億円の費用を要します。観光路線として活用策を見出していく一方、路線の維持は決して簡単ではないのです。
北海道において、不採算路線を維持していく場合、先日報道でもあったとおり、留萌本線と同様、自治体が維持に関して全額負担する従来の方針を変えていないとしています。
「SL冬の湿原号」は来年度以降も運行する方針とした一方、釧網本線が単独で維持することが困難な路線という理由で、自治体が維持費用を負担するという流れが、果たして筋が通っているのか?です。
逆に、観光路線としての価値を有することから、沿線自治体の負担を回避できたとしても、釧網本線も留萌本線などと同様に不採算路線であり、同じく単独で維持することが困難な路線に指定されています。
JR側で観光路線だからという理由で、維持費用を全額または一部を負担したとしても、それは従来の方針とは反することになりますから、このあたりを「SL冬の湿原号」を来年度以降も存続していく中で、どのように対応していくのかが気になるところです。
そんな釧網本線ですが、実は凄いプロジェクトがあるのです。世界遺産登録を推進する動きがあるのです。
過去に記事に掲載した内容をもう一度記載しますね。
釧網本線が世界遺産を目指すという報道がされたのが、記憶にある限りでは2016年2月末です。地元メディアから報じられたことなので、まだまだこの事実を知らないという方が多いと思います。
世界遺産の種類は大きく分けて3つあります。①文化遺産、②自然遺産、③複合遺産にそれぞれ分類されます。このうち、釧網本線が目指すのは、③の複合遺産になります。
Facebookページもあります。
参考:釧網本線世界遺産登録推進会議
世界遺産の登録基準は以下の通りです。
(i) 人間の創造的才能を表す傑作である。
(ii) 建築、科学技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えた、ある期間にわたる価値感の交流又はある文化圏内での価値観の交流を示すものである。
(iii) 現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である。
(iv) 歴史上の重要な段階を物語る建築物、その集合体、科学技術の集合体、あるいは景観を代表する顕著な見本である。
(v) あるひとつの文化(または複数の文化)を特徴づけるような伝統的居住形態若しくは陸上・海上の土地利用形態を代表する顕著な見本である。又は、人類と環境とのふれあいを代表する顕著な見本である(特に不可逆的な変化によりその存続が危ぶまれているもの
(vi) 顕著な普遍的価値を有する出来事(行事)、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連がある(この基準は他の基準とあわせて用いられることが望ましい)。
(vii) 最上級の自然現象、又は、類まれな自然美・美的価値を有する地域を包含する。
(viii) 生命進化の記録や、地形形成における重要な進行中の地質学的過程、あるいは重要な地形学的又は自然地理学的特徴といった、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な見本である。
(ix) 陸上・淡水域・沿岸・海洋の生態系や動植物群集の進化、発展において、重要な進行中の生態学的過程又は生物学的過程を代表する顕著な見本である。
(x) 学術上又は保全上顕著な普遍的価値を有する絶滅のおそれのある種の生息地など、生物多様性の生息域内保全にとって最も重要な自然の生息地を包含する。
この中から、登録基準のいずれか1つ以上に合致するとともに、真実性(オーセンティシティ)や完全性(インテグリティ)の条件を満たし、締約国の国内法によって、適切な保護管理体制がとられていることが必要です。
ちなみに、文化遺産、自然遺産、複合遺産の区分については、上記基準(i)~(vi)で登録された物件は文化遺産、(vii)~(x)で登録された物件は自然遺産、文化遺産と自然遺産の両方の基準で登録されたものは複合遺産とします。
2005年には同じ北海道内として知床が世界遺産に登録されたことが記憶に新しいです。知床は世界自然遺産に登録されています。知床は上記の登録基準のうち(ix)の生態系と(x)の生物多様性の2つの基準を満たして登録されました。
しかし、釧網本線が目指す複合遺産はそれとは異なり、(i)~(vi)の条件で1つ以上、(vii)~(x)の条件で1つ以上の条件がそれぞれ必要とされます。複合遺産の代表例としては、ペルーの「マチュ・ピチュ」がありますね。
複合遺産は世界的にも登録数が少ないです。世界に全1121件ある世界遺産のうち、複合遺産に指定されるものはわずか39件と非常に少ないです。ちなみに、日本ではこの条件を満たしている物件は現在ありません。複合遺産として登録されれば、日本初の登録例となり、全国的に注目されることは間違いありません。
登録基準について、2016年2月18日付で作成された「釧網本線世界遺産登録推進会議 設立趣意書」に記載されています。上記のFacebookページで確認することができます。
一部を抜粋しますが、自然遺産項目となり得る要素として、
『釧網本線(網走~東釧路、166.2㎞)は、網走国定公園、阿寒国立公園、釧路湿原国立公園を走り、世界自然遺産・知床を見渡す路線です。冬のオホーツク海の流氷や日本最大の屈斜路カルデラ、日本最大の面積を誇る釧路湿原などが沿線に広がる、世界的にも注目を集める、屈指の絶景鉄道です。これらに代表される多様な地球科学的な価値を有していることから、沿線では貴重な動植物が生息し、タンチョウをはじめ、ハクチョウ、オオワシ、オジロワシなどを車窓から見ることができ、北海道の雄大な自然を感じることができます。』
一方で注目となるのが、文化遺産登録の項目における「顕著な普遍的価値を有する記念物、建造物群、遺跡、文化的景観など」を有するのかどうかです。
ここで重要キーワードとして「顕著な普遍的価値」というものがあります。まず、普遍的な価値とは、「すべてのものに共通しているさま」です。世界遺産というキーワードで話題を展開するのであれば、世界遺産は全ての人々にとって価値を有するものとしなければならないということです。
ネット上で意味を調べていると、「顕著な普遍的価値」の意味がありました。それは、
「国家間の境界を超越し、人類全体にとって現代及び将来世代に共通した重要性をもつような、傑出した文化的な意義及び、または、自然的な価値を意味する。」
ということです。このことについて、設立趣意書には、
『アトサヌプリ(川湯硫黄山)での硫黄の採鉱、輸送のために前身の釧路鉄道が敷設されたのは、北海道近代化の黎明期でもある明治20年(1887年)まで遡り、その硫黄は世界の工業化の礎のひとつとなりました。鉱山採掘や鉄道敷設には囚人が動員されたという、北海道開発における重要な歴史も有しています。』
とそれぞれ記載されています。自然や景観だけが注目されがちですが、こうした歴史や文化的な観点もあったということも色々と学ばせていただいた次第です。
指摘させていただきたい点として、例えば、歴史ある文化遺産が指定されるものとしては、不動産の有形構築物が一般的だと思います。ですが、世界の鉄道関連における世界遺産の登録例はさまざまであり、鉄道そのものが世界遺産となったり、2つの山岳鉄道が登録対象となったり、山岳鉄道群として登録された事例もあります。確認する限りでは主に山岳鉄道での登録例が多いです。
調べていると、これらは主に世界文化遺産登録となっていると思われ、上記の(ii)と(iv)の2つの登録基準を主に満たしています。その鉄道路線において後の建築物や建造物、そのほか技術だったり景観設計などに大きな影響を与えた要素が含まれています。
例えば、オーストリアのゼメリング鉄道はヨーロッパで最初に国際標準軌間を採用した山岳路線であり、自然と調和させたトンネル掘削、橋梁架構が大きく評価されました。
スイスとイタリアが共有するレーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観においては、複数のトンネルや橋で特徴的な構造をもち、加えて沿線の景観とともに高く評価されました。
世界の事例と比較すると、世界遺産を目指す釧網本線との違いは、鉄道路線を形成するうえでそうした歴史的な建造物を有しているか、あるいは、後の鉄道路線発展に寄与するべく、何らかの先進的な技術が導入されていたかの2点です。釧網本線からは見えづらい部分があります。
例えば後者の場合、前進となる釧路鉄道開業時からレールや枕木をそのまま使用していたりすると、世界遺産登録を目指すには1つの注目ポイントになります。それだけではなく、1年を通じて北海道という環境の変化が厳しいの中で、90年以上にわたってレールだったり枕木だったり、そうした地上設備を維持してきた技術を含めると文化遺産として認められる要素を含む気がします。
なぜ、このようなことを挙げるかというと、上述の通り、世界遺産登録に際し、真実性(オーセンティシティ)や完全性(インテグリティ)という条件を満たさなければならないからです。言いかえると、例えばレールや枕木などの地上設備が開業当初から高い技術力によってそのままの状態で使われてきたか、あるいは維持され続けてきたかということです。安全上の問題で日本ではそうしたことができず、レール幅改ざんの問題が発覚して以降、道内の各路線で地上設備に手が加えられたことは事実ですから、路線そのものの建築物や建造物からみる歴史的な背景は乏しいと言えます。
昨今、橋梁やトンネルを中心に老朽化の問題も取り上げられています。世界遺産に登録されるような路線のもつそうした建築物や建造物というのは、おそらく100年以上にわたって使い続けられており、老朽化の心配もなければ、錆びるなどの景観を崩す要素も含みません。もちろん今後も末永く使い続けていくことになります。施設の老朽化問題に建築物や建造物が取り上げられているレベルでは、世界遺産に登録されている鉄道あるいは鉄道路線にはとても太刀打ちできないでしょう。
仮に世界遺産となれば、日本ではそうした事例がなく、初の登録事例として注目をあびることは言うまでもありません。複合遺産登録も日本では1つもないので、さらなる注目をあびることで地域振興策の1つとしても期待することができるでしょう。
このような、北海道の鉄道が明るくなる・元気になるような活動が開始された反面、当時は悲しい現実に直面することになります。
過去に当ブログにコメントにて、この世界遺産を目指す重大プロジェクトは最低でも10年以上かかる大事業ということを教えていただきました。重大プロジェクトが立ち上がったばかりだったにも関わらず、当時、釧網本線が単独で維持することが困難な路線に指定されてしまいました。
釧網本線世界遺産登録推進会議の方々にとっては、そのような発表がされた際、非常に困惑したことと思います。単独で維持することが困難ということだけが発表されただけで、具体的にどの程度存続できるのかもわからない。そして、他の路線や線区のように急に廃止打診などの報道が流れて、路線が次々と消えてゆく、、、。
そんな方向性が不透明な中で、5年の歳月が流れました。その中でも、釧網本線での明るい話題を中心にFacebookページは更新し続けています。今回の「SL冬の湿原号」の来年度以降の運行継続及び、老朽化したSLと客車の改修を実施することで、「SL冬の湿原号」のみならず、「くしろ湿原ノロッコ号」や「流氷物語号」、そして、そうした列車が走る釧網本線も何らかの形で不採算ながらも維持していくという方向性が見えたと思います。10年以上かかる巨大事業も再始動できる見込みがありそうです。
昨年度と今年度は新型コロナウィルスの影響で利用が落ち込んでしまった「SL冬の湿原号」。同列車が来年度以降も運行を継続することで、釧網本線の廃止を阻止できる救世主にもなります。
釧網本線は不採算路線に変わりはないですが、臨時列車が削減される中で、引き続き設定されている列車が多く、北海道の恵みシリーズやキハ54形気動車によるラッピングトレインなど、イベント用の車両の運行が多く、数日釧路に滞在していると、本数が少ないながら、意外と明るい路線だということが見えてきました。
もちろん、臨時列車が多い時期だからという理由もありますが、維持が大変な反面、北海道の中でも特殊なポテンシャルというか、力を持ってると思います。釧網本線については、管理者は根室本線が不通になっていることや、石勝線が万が一不通になった場合の迂回手段として、仮に廃止の方向へ持っていくのであれば、要検討すべきということは以前からブログ記事で記載してきました。
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