【コラム】振り子と車体傾斜
コラム - 2023年02月25日 (土)
今回は久々のコラム記事。
題名は「振り子と車体傾斜」。振り子式車両も車体を傾斜させますが、日本国内においては、振り子式車両ではない車体傾斜装置を採用した車両もあり、同じく車体は傾斜されるけれども、題名のように言葉の使い分けがされています。


同じ場所で撮影したキハ281系とキハ261系を比べてみます。明らかに車体が傾いているのがわかります。
キハ261系は、元々は車体傾斜装置を搭載している車両ですが、車両メンテナンス向上のため、現在は使用を停止しています。車体傾斜装置搭載車両は、車体を傾斜させるにしても、最大2°程度なので、通常の車両とカーブでの通過シーンを見比べてもあまり遜色ないです。
振り子式と車体傾斜装置で比較した場合、車体を大きく傾けることができるのは振り子式です。振り子式車両は、一般的には最大5°車体を傾斜させます。キハ283系のように最大6°まで傾斜できる車両も一部ありますが、基本的には5°が最大です。現時点で振り子式車両で最新の2700系も5°になっています。
それぞれで利点と欠点もあります。
振り子式車両は、車体を傾斜する技術としては車体傾斜装置よりも古く、依然として車体を傾斜させる技術としては第一線で使用されています。あらかじめ線路上の曲線部ごとのカント等のすべての地上データの情報を車上装置へ記録しておき、そこで記録された曲線情報は、地上にあるATS地上子を使用して位置情報と速度情報を基に、曲線区間における適切な車体傾斜角度を計算します。これが最新の2700系にも採用されている制御つき自然振り子式です。
振り子式は元々381系で営業列車に投入されたわけですが、同車については自然振り子式です。カーブを通過する際に遠心力を利用して車体を傾けて高速でカーブを走行する仕組みです。機構もシンプルでこれも車両側だけの設備で完結します。ただ、車体傾斜を制御しているわけではないので、どうしても振り遅れや戻る際に時間差が生じてしまい、結果的に乗り心地が悪く、人によっては乗り物酔い現象を起こしてしまいます。
こうして車体を傾斜させる技術として第一線で使用できる反面、台車の構造が複雑になり、部品数も多くなります。車両メンテナンスの面においても、通常の車両よりも過大となってしまいます。
一方の車体傾斜装置は、車体を傾斜させる技術としては、振り子式よりも積極的に採用されるようになってきました。利点としては、車体を傾ける空気バネなどが台車と車体の間にあるため、台車については、通常の車両とほぼ同一の構造とすることができ、振り子式車両のような複雑な構造とはなりません。一方、急曲線が連続するような区間では、車体を傾ける際に使用する空気容量の確保が課題となっています。
この空気容量の確保の問題をクリアできなかったのがJR四国の2600系です。元々は同車で2000系を置き換える計画でしたが、土讃線試運転時に曲線が連続するため、空気容量が確保できず、車両は高徳線の特急「うずしお」で限定運用となりました。
結果的に2000系の後継車両は、従来の制御つき自然振り子式を採用した2700系になりました。そして後述する8600系についても、量産先行車を投入し、走行試験の結果、曲線が連続する区間で元空気溜圧が想定以上に低下する事象が発生しました。このため量産車では、車体傾斜を行う曲線の見直しや、制御を行う区間の見直し、空気タンクを1両あたり330リットル710リットルに増設しています。量産先行車についても同様の改修が実施されています。
北海道の場合、振り子式車両までは要らずとも、一定の高速化ができるという理由でキハ261系が製造されました。例えば最初に投入された宗谷本線では、メインとなるのが札幌〜名寄間になるわけですが、急曲線が連続するような区間もなく、あくまで多少カバーできる程度でしか見ていなかったのです。
その結果、キハ281系が本則+30km/hに対し、キハ261系の場合は本則+25km/hです。この違いは、曲線通過時の車体の振り遅れとされています。
仕組みは先頭車に搭載しているジャイロセンサー(角速度センサー)によって曲線に差しかかった際に車体の角速度と走行速度を検知し、次に制御装置でそれらから曲線の方向と角度を求め、搭載されている加速度センサーで左右加速度を求めて傾斜角度を決定します。
これにより、当初「スーパーとかち」で投入された石勝線や根室本線ではキハ283系と同等の走行性能を得ることができましたが、曲線に差しかかってから車体を傾斜させる準備に入るので、どうしても曲線に進入した際に振り遅れが生じていました。
そしてさらに問題視されたのが、度々耳にしていた燃費の問題。キハ261系の燃費は最悪と管理者も何度か耳にしたことがありました。もちろん、環境性能を向上させているとはいえ、出力を向上している分、従来の気動車よりも燃費は悪くなってしまいます。さらにキハ261系には別の問題で燃料の消費が著しかったのです。
それは、車体傾斜時に燃料の消費が激しいということです。
正確には、車体の傾斜は圧縮空気を利用したものであり、それはコンプレッサーから供給されます。そのコンプレッサーがエンジンと直結しています。車体を傾斜させるためにコンプレッサーが作動し、コンプレッサーの動力源はエンジンですから、エンジンを稼働させるにも燃料が必要になってきます。
加えて、過去にツイッターの投稿でその圧縮空気は再利用等されず、一度車体を傾斜させたら吐き出され、もう一度カーブを通過する際は一から生成するというような内容を確認したことがあります。これでは、燃料ドカ食いという理由にも納得で、札幌と釧路を往復できない等の噂が流れたのも無理ありません。
仮に車体傾斜装置を稼働させたまま昨今運行していた場合、燃料を途中で供給しなければいけない列車もあり、現保有数では現行の運用数を維持するのは難しかったでしょう。おそらく、車体傾斜装置を停止した背景には、こうした事情もあったと推測します。
道外に目を向けると、まだまだ振り子式車両や車体傾斜装置つき車両が活躍しています。振り子式と車体傾斜装置で車体の傾斜角度が異なるわけですが、振り子式車両と共存している場合や、振り子式車両を車体傾斜装置つきの車両へ置き換えた例も出てきた現在、傾斜角度が小さくなるからといって、極端にスピードダウンしている例はありません。むしろ同等の走行性能を維持しています。
この謎は元々のルールにあり、乗車中の超過遠心力あるいは左右定常加速度が0.08G以下であれば、本則よりも速度を向上させることができます。
その結果、JR東日本のE351系とE353系、JR四国の8000系と8600系のように、振り子式車両から車体傾斜装置つき車両への置き換え、あるいは共存する際、車体傾斜角度が抑えられても0.08G以下に収まっていることから、振り子式車両と同等の曲線通過性能が得られました。
加えて、従来の振り子式車両のように、地上の路線データなどをあらかじめ記録しておき、ATS地上子により自車の位置を検知して曲線区間の手前から車体を傾斜させるマップ式を併用することで、キハ261系のような振り遅れ、タイムラグが生じることはありません。これも同等の曲線通過性能が得られた理由の1つだと思います。
このように道外へ目を向けたら、まだまだこれら車体傾斜技術というのは進化し続けています。
そして、2024年春以降、特急「やくも」に273系が投入されます。車上の曲線データと走行地点のデータを連続して照合し、適切なタイミングで車体を傾斜させる方式が採用されます。なので、従来の制御付き自然振り子式に、しかも車両側の設備だけで適切に車体を傾斜させるという従来の技術の集大成とも言うべきシステムです。
残念ながら北海道では、車体を傾斜させる車両は、機器の使用を停止したり、引退したりして消滅状態にあります。北海道新幹線札幌延伸も控え、地方では過疎化や高速道路の延伸もあり、特急列車の利用も軒並み落ち込んでいます。また、不採算路線に指定されている路線もあり、将来的に特急列車も存続していくのかもわからない状況です。
今後も引き続き厳しい状況は変わらず推移していきますが、都市間輸送には欠かせない存在の特急列車。キハ261系の後継車は一体どのようになるのか?再び車体を傾斜させる車両になるのか注目です。
最後に、たくさんのコメントありがとうございます。明日以降順次返信します。よろしくお願いします。
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題名は「振り子と車体傾斜」。振り子式車両も車体を傾斜させますが、日本国内においては、振り子式車両ではない車体傾斜装置を採用した車両もあり、同じく車体は傾斜されるけれども、題名のように言葉の使い分けがされています。


同じ場所で撮影したキハ281系とキハ261系を比べてみます。明らかに車体が傾いているのがわかります。
キハ261系は、元々は車体傾斜装置を搭載している車両ですが、車両メンテナンス向上のため、現在は使用を停止しています。車体傾斜装置搭載車両は、車体を傾斜させるにしても、最大2°程度なので、通常の車両とカーブでの通過シーンを見比べてもあまり遜色ないです。
振り子式と車体傾斜装置で比較した場合、車体を大きく傾けることができるのは振り子式です。振り子式車両は、一般的には最大5°車体を傾斜させます。キハ283系のように最大6°まで傾斜できる車両も一部ありますが、基本的には5°が最大です。現時点で振り子式車両で最新の2700系も5°になっています。
それぞれで利点と欠点もあります。
振り子式車両は、車体を傾斜する技術としては車体傾斜装置よりも古く、依然として車体を傾斜させる技術としては第一線で使用されています。あらかじめ線路上の曲線部ごとのカント等のすべての地上データの情報を車上装置へ記録しておき、そこで記録された曲線情報は、地上にあるATS地上子を使用して位置情報と速度情報を基に、曲線区間における適切な車体傾斜角度を計算します。これが最新の2700系にも採用されている制御つき自然振り子式です。
振り子式は元々381系で営業列車に投入されたわけですが、同車については自然振り子式です。カーブを通過する際に遠心力を利用して車体を傾けて高速でカーブを走行する仕組みです。機構もシンプルでこれも車両側だけの設備で完結します。ただ、車体傾斜を制御しているわけではないので、どうしても振り遅れや戻る際に時間差が生じてしまい、結果的に乗り心地が悪く、人によっては乗り物酔い現象を起こしてしまいます。
こうして車体を傾斜させる技術として第一線で使用できる反面、台車の構造が複雑になり、部品数も多くなります。車両メンテナンスの面においても、通常の車両よりも過大となってしまいます。
一方の車体傾斜装置は、車体を傾斜させる技術としては、振り子式よりも積極的に採用されるようになってきました。利点としては、車体を傾ける空気バネなどが台車と車体の間にあるため、台車については、通常の車両とほぼ同一の構造とすることができ、振り子式車両のような複雑な構造とはなりません。一方、急曲線が連続するような区間では、車体を傾ける際に使用する空気容量の確保が課題となっています。
この空気容量の確保の問題をクリアできなかったのがJR四国の2600系です。元々は同車で2000系を置き換える計画でしたが、土讃線試運転時に曲線が連続するため、空気容量が確保できず、車両は高徳線の特急「うずしお」で限定運用となりました。
結果的に2000系の後継車両は、従来の制御つき自然振り子式を採用した2700系になりました。そして後述する8600系についても、量産先行車を投入し、走行試験の結果、曲線が連続する区間で元空気溜圧が想定以上に低下する事象が発生しました。このため量産車では、車体傾斜を行う曲線の見直しや、制御を行う区間の見直し、空気タンクを1両あたり330リットル710リットルに増設しています。量産先行車についても同様の改修が実施されています。
北海道の場合、振り子式車両までは要らずとも、一定の高速化ができるという理由でキハ261系が製造されました。例えば最初に投入された宗谷本線では、メインとなるのが札幌〜名寄間になるわけですが、急曲線が連続するような区間もなく、あくまで多少カバーできる程度でしか見ていなかったのです。
その結果、キハ281系が本則+30km/hに対し、キハ261系の場合は本則+25km/hです。この違いは、曲線通過時の車体の振り遅れとされています。
仕組みは先頭車に搭載しているジャイロセンサー(角速度センサー)によって曲線に差しかかった際に車体の角速度と走行速度を検知し、次に制御装置でそれらから曲線の方向と角度を求め、搭載されている加速度センサーで左右加速度を求めて傾斜角度を決定します。
これにより、当初「スーパーとかち」で投入された石勝線や根室本線ではキハ283系と同等の走行性能を得ることができましたが、曲線に差しかかってから車体を傾斜させる準備に入るので、どうしても曲線に進入した際に振り遅れが生じていました。
そしてさらに問題視されたのが、度々耳にしていた燃費の問題。キハ261系の燃費は最悪と管理者も何度か耳にしたことがありました。もちろん、環境性能を向上させているとはいえ、出力を向上している分、従来の気動車よりも燃費は悪くなってしまいます。さらにキハ261系には別の問題で燃料の消費が著しかったのです。
それは、車体傾斜時に燃料の消費が激しいということです。
正確には、車体の傾斜は圧縮空気を利用したものであり、それはコンプレッサーから供給されます。そのコンプレッサーがエンジンと直結しています。車体を傾斜させるためにコンプレッサーが作動し、コンプレッサーの動力源はエンジンですから、エンジンを稼働させるにも燃料が必要になってきます。
加えて、過去にツイッターの投稿でその圧縮空気は再利用等されず、一度車体を傾斜させたら吐き出され、もう一度カーブを通過する際は一から生成するというような内容を確認したことがあります。これでは、燃料ドカ食いという理由にも納得で、札幌と釧路を往復できない等の噂が流れたのも無理ありません。
仮に車体傾斜装置を稼働させたまま昨今運行していた場合、燃料を途中で供給しなければいけない列車もあり、現保有数では現行の運用数を維持するのは難しかったでしょう。おそらく、車体傾斜装置を停止した背景には、こうした事情もあったと推測します。
道外に目を向けると、まだまだ振り子式車両や車体傾斜装置つき車両が活躍しています。振り子式と車体傾斜装置で車体の傾斜角度が異なるわけですが、振り子式車両と共存している場合や、振り子式車両を車体傾斜装置つきの車両へ置き換えた例も出てきた現在、傾斜角度が小さくなるからといって、極端にスピードダウンしている例はありません。むしろ同等の走行性能を維持しています。
この謎は元々のルールにあり、乗車中の超過遠心力あるいは左右定常加速度が0.08G以下であれば、本則よりも速度を向上させることができます。
その結果、JR東日本のE351系とE353系、JR四国の8000系と8600系のように、振り子式車両から車体傾斜装置つき車両への置き換え、あるいは共存する際、車体傾斜角度が抑えられても0.08G以下に収まっていることから、振り子式車両と同等の曲線通過性能が得られました。
加えて、従来の振り子式車両のように、地上の路線データなどをあらかじめ記録しておき、ATS地上子により自車の位置を検知して曲線区間の手前から車体を傾斜させるマップ式を併用することで、キハ261系のような振り遅れ、タイムラグが生じることはありません。これも同等の曲線通過性能が得られた理由の1つだと思います。
このように道外へ目を向けたら、まだまだこれら車体傾斜技術というのは進化し続けています。
そして、2024年春以降、特急「やくも」に273系が投入されます。車上の曲線データと走行地点のデータを連続して照合し、適切なタイミングで車体を傾斜させる方式が採用されます。なので、従来の制御付き自然振り子式に、しかも車両側の設備だけで適切に車体を傾斜させるという従来の技術の集大成とも言うべきシステムです。
残念ながら北海道では、車体を傾斜させる車両は、機器の使用を停止したり、引退したりして消滅状態にあります。北海道新幹線札幌延伸も控え、地方では過疎化や高速道路の延伸もあり、特急列車の利用も軒並み落ち込んでいます。また、不採算路線に指定されている路線もあり、将来的に特急列車も存続していくのかもわからない状況です。
今後も引き続き厳しい状況は変わらず推移していきますが、都市間輸送には欠かせない存在の特急列車。キハ261系の後継車は一体どのようになるのか?再び車体を傾斜させる車両になるのか注目です。
最後に、たくさんのコメントありがとうございます。明日以降順次返信します。よろしくお願いします。
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